小菅村のお祝い事に欠かせない、「山のフグ刺し」
目を閉じてわさび醤油をつけて口にしたら、まるでフグの刺身のよう!見た目も白くてみずみずしい、それが木下さんの「こんにゃく」です。小菅村ではお正月などのお祝い時には、各家庭で必ずこんにゃくを作っていたといいます。総面積の95%を森林が占める緑に囲まれた小菅村では、海の幸の代わりにこんにゃくを食べていたとか。
こんにゃくの原料である「こんにゃく芋」の国内生産量は、約85%を群馬県が占めていますが、実は小菅村にしかないこんにゃく芋があります。在来種のこんにゃく芋は、現在のベトナムにあたる東南アジアが原産地。中国を経由し漢方薬として伝わり、幕末頃から明治にかけて山梨県の山間地に栽培され、昭和に入ってから産地化が図られたそう。ちなみに、こんにゃく芋がつける実(こんにゃく芋自体は実でなく球茎)を見てみると、東南アジアの作物であることが容易に想像できるでしょう。
小菅村のシンボル、掛け軸畑
「ここは私の遊び場なんですよ」と畑をご紹介くださったのは、小菅村の在来種のこんにゃく芋の栽培から、こんにゃくの加工・販売までを手掛ける、木下新造さん。現場に行ってまず驚いたのは、その畑の傾斜がすごいこと!実はここ、最大傾斜が40度ともいわれる急斜面を利用する畑で、別名「掛け軸畑」と呼ばれる小菅村の象徴ともいえる場所でした。こんにゃく芋は多湿にとても弱いため、水はけがよく傾斜のある畑が栽培に適しています。この掛け軸畑で長年農作業をしている、小菅村のお年寄りたちの足腰が強いのは言わずもがな。
また、掛け軸畑はその多くが南向き。それは、小菅村の在来種のこんにゃく芋は4年の歳月をかけてじっくりじっくり成長するため、冬の間土の中が貯蔵庫になるのです。つまり、北向きの畑の場合、冬にこんにゃく芋が凍ってしまう懸念があるのだそう。
「量は採れなくていい。その分質がいいから」そう話す、木下さんのこんにゃく芋は無農薬栽培。農薬を使う代わりに、こんにゃくとライ麦を一緒に育て、集中豪雨などで土砂が流れるのを防いだり、麦類を好む害虫アブラムシを寄せ付けて病害から守ったりするそう。そして、刈り取ったライ麦は有機物としてそのまま畑に補給。高温乾燥時に地温の上昇を避ける役割もあるといいます。
こんにゃくづくりは、夫婦の共同作業
定年を機にこんにゃくづくりを始めた、木下さん。作業の様子を拝見させていただくと、それはシンプルなものでした。皮をむいたこんにゃく芋を煮て、水と合わせてミキサーに。それを練っていき、凝固剤(化成ソーダ)を入れて素早く混ぜます。ここからが木下さんご夫婦の共同作業!奥さんがカップで均一な量を計りながら軽く丸めて、木下さんが最終成型を担当。この作業を手早く行わなければ、形が崩れてしまうといいます。息の合ったお二人だからこその技でした。
こんにゃくの製造工程を見て分かったのは、原料もとてもシンプルだということ。その分、原料自体の味に左右されるのです。こんにゃく芋は上述の通り、木下さんが念入りに面倒を見ている自信作。そして、こんにゃくづくりに使用する水は、近くの沢水を沸かして利用しています。多摩川源流のキレイな水も、木下さんのこんにゃくの味の決め手の一つになっているに違いありません。
シンプルだからこその味わい
「こんにゃくは胃腸を整えてくれるから、みんな食べるといいよ」木下さんが話す通り、こんにゃくは「胃のほうき」や「腸の砂下ろし」とも呼ばれ、昔の人は大掃除の後には必ず食べる習慣があったそう。こんにゃくには、腸の動きを活発にし、体内の有毒なものを早く外へ出す効果があるのです。また、約97%が水分からできているというこんにゃくは、カロリーを気にする人にも満腹感を与えてくれるうれしい食べ物なのです。
やっぱり刺身
木下さんにオススメの食べ方を聞いてみると、「やっぱり刺身でしょ!」と即答。同じく小菅村の名産品である沢わさびとお醤油をつけたり、酢味噌につけたり、新鮮だからこその味わいです。また、奥さんいわく、ゴマ和えにしたり、煮物にしても味がよくしみておいしいとのこと。
おかずとしても酒の肴としても楽しめる、こんにゃく。木下さんご夫妻の愛情がたっぷり詰まったこんにゃくを今晩おひとついかがですか?
こだわりのこんにゃくを作り続ける木下さんご夫妻