木のぬくもりが伝わる、「きおび編み」
眺めると心が安らぎ、触れるだけでぬくもりが伝わる、木のもの。ひとつひとつ異なる天然の木目を楽しみながら、経年変化を味わうことのできる木工品が小菅村にもあります。木の帯を使って編むことから「きおび編み」と呼ばれる、小菅村を代表するモノづくりです。
総面積の94%が森林に覆われた小菅村で、きおび編みに使う木材は、建材用などに伐採された木の切り株。これまで使われてこなかった40~50㎝の切り株部分をカンナで薄く削って帯状にし、編み上げたきおび編みは、無塗装仕上げで、人にも森にも優しいものづくりです。
小菅村の資源を活かした手づくり品
このきおび編みを生み出したのは、「ゆうゆう倶楽部」。「悠々自適に老後を暮らそう」というコンセプトで、小菅村のおじいちゃん・おばあちゃんで結成されたグループです。代表の小泉みつるさんは、「高齢化のこの村で、定年を迎えた人がブラブラしているのはもったいでしょ。彼らと一緒に、小菅村ならではのものづくりをしたかったんです」と、結成当初の想いを話します。とはいえ、機械を買うお金もなかったため、手作業で作れることが大前提。そこで、小泉さんたちが参考にしたのが竹細工でした。小泉さんは竹籠を編む技術を学ぶところから始め、仲間と一緒に村に新しい特産品を生み出したのです。
試行錯誤の末、たどりついた木材
一見、シンプルに見えるきおび編みの構造にも、努力の跡が見え隠れします。製材の際、丸太の中心を通らずにたて方向に切断した“板目(いため)”の材を使った場合、編み上げるときに木が割れてしまうという問題が発生したのです。そこで試したのが、“柾目(まさめ)”に削った材。木材を中心から半径方向に、年輪と直交するように木取りをすることで、木目が美しく、強くしなやかな材に仕上がったんだそうです。
しかし、“柾目”は太い丸太でないとほとんどとれません。そこでいきついたのが、小菅村を代表する大菩薩峠にある樹齢100年以上のヒノキでした。それも節目のない良質な木に限られます。粘り気があり、弾力性に富んだヒノキは香りも豊か。きおび一つひとつに刻まれた年輪を眺めながら、ヒノキの香りを楽しめるのも、使い手にとってはうれしいところですね。
身の回りにある素材を使って、生活に必要なモノをつくる文化
そんなきおび編みの作り手も、高齢化により、現在の作り手は代表の小泉さん他数名。今年71歳を迎えた小泉さんは「身の回りにある素材を使って、生活に必要なモノを作る。そんなモノづくりの文化をつないでいきたい」と話します。そのため、小泉さんは「きおび編み体験」も随時受け入れ、その技術継承に余念がありません。最近ようやく、竹細工の技術は後継者が見つかったといううれしいお知らせも。きおび編みも、その刻まれた年輪のように、小菅村のモノづくりとして少しずつ広がりを見せていくことを願ってやみません。
「身の回りにある素材を使って、生活に必要なモノを作ると小泉さん